小学校の頃、書道の時間に筆で字を書くことを教わりますが、墓石に彫る文字は、その時習ったような文字の書き順に気を付け、また「はね」、「はらい」などを重視して丁寧に彫り込まれます。一画目の最初や止める時にはグッと力を入れて深く、はらうときはすっと浅めに…などに注意しながら、紙に書くのではなく石に「彫り込む」ので、そこに立体感が生まれます。
さて、白系統の石材の場合、磨いたり彫ったりした際も、色にはあまり差は出ません。
本磨き仕上げで磨いた黒御影石だと、彫り込むとはっきりと文字が読み取れます。磨いた時と磨かない時の色の差が大きいためです。そのため彫ったところと彫っていないところの差がとてもクッキリ見えることになるのです。
インド産クンナム
こちらのお客様の「金野家」は浮彫で、文字の周りを彫って字を浮き上がらせる彫り方です。その後、電動の工具を用いて周囲を軽く叩いていって、字との境目はより細い工具でなぞり、最後に手作業で仕上げをします。周囲の色が薄くなる分、字が浮き上がって見えやすくなります。
この「浮彫」ですが、他の石材だとこんな感じになります。
茨城産稲田白御影石
岡山産万成石
新潟産草水石
茨城産真壁小目石
茨城産羽黒糠目石
色が濃くなればなるほど彫った時のコントラストがはっきりして字が目立つのが判りますよね。
どの石材もそれぞれ独特の味を持っていて、まじまじと見るととても綺麗ですよ。
スウェーデン産インペリアルレッド
そして、こちらの聖書の言葉は、黒御影に字を彫りこみ、さらに白色を入れたタイプです。
白と黒の反対色なのでとてもよく目立ち、遠くからでも何が彫られているかが一目瞭然です。
こちらも名前の部分はやはり浮彫で彫ってあります。
この浮彫はいわば画用紙に黒ペンで書くような感じ。
半面、彫り込む場合は彫った字のほうが周囲より白っぽい色になるので、例えば色画用紙に白鉛筆で書く感じでしょうか。
地が、青や黒などの色画用紙なら白鉛筆もよく目立ちますが、黄色やピンク等薄めの色に白鉛筆を使ってもなかなか目立ちませんよね。
その為、墓石の色によって、彫った字がより見やすくなるようにするために、上のように文字の中に白や黒等の色を入れる場合があります。
たとえば黒だとこんな感じになります。
「素の素材の美しさのままがいい」
「だれが見ても判りやすいように色が入れたい」
「目を凝らさなければ何が彫ってあるか見えないのはちょっと…」
「彩色してしまうと看板のようにのっぺり見えるからイヤ」
「時間が経って色がはがれているのを見た」
・・・などなど、お客様毎に様々なご意見があります。
(付け足しますと、現在使用しているペンキは昔より剥がれ辛く、とても長持ちするようになったとのことです。)
ちなみに、墓地で赤い文字の入ったお墓をご覧になったことがあるかも知れません。
お墓を建てる時には通常、建てた方の名前(施主名)を石に刻みますが、その際に名前を朱色に塗る場合もあるからです。
お墓を建てた方が生きている証しとして、名前を赤文字(朱色)に塗ると思われている向きもありますが、本来は生前に戒名(法名)をつけていただいた方が朱色を塗る、というのが正しいようです。
生きている方がお墓を建てた場合に朱を入れるというのが正式だとすると、お墓の建立者は通常生存者ですので、全てのお墓の建立者名に朱文字を刻むことにもなり、矛盾してしまうことになりますよね。